1. なぜリハビリテーションが必要なのですか?

血友病におけるリハビリテーションの目的

 

(1) リハビリテーションとは?

 

リハビリテーション(以下、リハビリ)とは、病気によって引き起こされた生活上の不都合(障害)を、訓練、運動、温熱、装具、助言、指導、調整、社会制度の活用などにより、身体的にも精神・心理的にも良い状態にすること(再適応)をいいます。内科や外科と異なる点は、病気そのものを対象とするのではなく、障害に焦点を当てること、訓練や運動が治療手段の中心となること、身体や心の再適応が治療目標であることです。日常生活や社会生活に障害を生じた場合、製剤や注射では良くならないため、リハビリ治療は大変重要になります。

 

ところで、「リハビリ=訓練」としばしば誤解されがちですが、訓練はリハビリにおける重要な要素ではあっても、あくまでその一部に過ぎません。したがって、訓練することを指して「リハビリをする」というのは適切ではありません。本来、リハビリをするとは、障害に対して包括的な取り組みをすることを意味しているのです。

 

(2) 血友病の障害と運動の必要性

 

血友病は、第VIII因子または第IX因子の欠乏により、止血が困難になる病気です。この病気で生じる身体的な障害として、1 関節内出血で肘、膝、足首の関節などに痛みを生じたり動きが悪くなること(関節障害)、2 筋肉内の出血で力が弱くなったり、筋肉の動きが悪くなること(筋障害)、3 頭や脊柱の中の出血で大脳や脊髄に異常を来して痙性麻痺(固くなるタイプの麻痺)を生じること(中枢神経障害)、4 主に筋肉内の出血により末梢神経が圧迫され弛緩性麻痺(柔らかくなるタイプの麻痺)を生じること(末梢神経障害)、などが挙げられます。

 

筋肉内や関節内の出血により、その部位に腫れ(腫脹)や痛み(疼痛)が生じると、しばらくの間は、出血部位の安静や日常生活での動きの制限を余儀なくされます。しかしながら、安静や固定を必要以上に長く続けるとさまざまな弊害が起こってきます。例えば、長い間関節を動かさないでいると、硬くなって動く範囲が狭くなり(関節拘縮)、日頃の生活での色々な動作が十分に行えずに筋力が弱くなったりします(筋力低下)。このようなことが繰り返されると、関節がさらに悪くなって、筋肉内や関節内で出血を生じやすくなってきます。この悪循環が長く続くと最終的には血友病性関節症へと移行していきます(図1)。

 

図1血友病性関節症における悪循環

図1血友病性関節症における悪循環

血友病性関節症は、肘、足首や膝の関節で多くみられます。これらの関節が血友病性関節症に陥ると日常生活において色々と不自由なことが起こってきます。例えば肘関節では肘が曲がらないために、ワイシャツの第1ボタンがかけられなくなったり、顔を洗ったり、食事の時も不自由になります。また、足首や膝の関節症では正座、ソファからの立ち上がり、しゃがみ込み、和式トイレの時や歩いたり、走ったり、階段の上り下りなどがしづらくなってきます(図2)。

 

図2日常生活で“できない”あるいは“しづらい”動作

図2日常生活で“できない”あるいは“しづらい”動作

産業医科大学病院 北部九州血友病センターにおけるアンケート調査結果
(対象:55名の血友病患者さん)

典型的な歩行障害例では、足首の背屈(かかとを地面につけてつま先を上げる動き)が制限されるためつま先歩きの傾向を生じたり、膝の動きが悪いために膝を曲げたまま固定した歩き方になります。また、階段の上り下りも困難になります。以上のような障害の結果、仕事や通学にも制約を生じます。

この血友病性関節症を予防したり、あるいは進行を防ぐためには、出血による悪循環をできるだけ起こさないようにしなければなりません。そのためには必要以上の安静を止め、運動ができるようになったら早い時期に関節を動かすこと(関節可動域訓練)や筋力を強化するための運動(筋力強化訓練)などを取り入れることが大切になります。
 

(3)血友病の障害はどのような方法で治療するのですか?

血友病の治療は凝固因子製剤の補充ですが、関節については、いったん障害を生じると、製剤を投与するだけでは改善しません。例えば、血友病性膝関節症で椅子からの立ち上がりが困難な患者さんに、いくら製剤を投与したところで椅子からの立ち上がりは楽にはなりません。その困難な原因が何かを見極め、膝が曲がらないのであれば関節可動域訓練、力が弱いのであれば筋力強化訓練、仕事に支障を来しているのであれば椅子の座面にシートを1枚入れて、立ち上がりを容易にします。さらに、身体障害者手帳を交付してもらい、企業の方に就業上の配慮をお願いします。

このように、血友病によって生じる心身の障害に対しては、止血管理のほかに、複数の関連分野の医療・福祉スタッフが参加して、訓練、運動、装具、助言、指導、調整、社会制度の活用などによる包括的な取り組みが必要となります。これが血友病の障害の治療法であり、まさに血友病のリハビリテーションなのです。なかでも、自主的な運動療法や生活の活性化は、家庭でも比較的簡単に行うことができ、患者さんにとって重要な内容です。

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